2014年11月13日木曜日

人は 線を引く
ペンで
紐で
指で
人は 線を引く

人は 線を引く
刀で
言葉で
権力で
人は 線を引く

人は 線を引く

人は 線を引く
線を引くことで
人は 人としての 輪郭を
保つことに 必死なのだ

形を無くしてしまうこと
それは ぼくたちにとって
とても こわい ことなのだ

死ぬこと
すべての人たちに
刻印を押す
医師は 死を知らぬまま
死を告げる

残された人たちは
今宵も 何処か
僕の知らない町の
僕の知らない家の
僕の知らない生活の
僕の知らない台所の
冷凍保存された鮪の切り身のように
死を 見まいとする慾望の
切り出した 切り身のように
解答を予め血抜きされた解凍作業

予め切り出された鮪の切り身
冷ややかな包丁を突き立てる女は
焼却処分された生ゴミと
火葬された主人の区別も知らず
解凍された鮪の切り身へと
その 鋭い刃を 突き立てる

紅い紅い 鮪 の 切り身
血を流す事もできない鮪
包丁は その身に 綺麗な 線を引く
鮪は 次第に 鮪らしく
整え 磨かれた 器に相応しい
綺麗な 切り身と 成ってゆく

主人は 灰になり
無限にも思える天球の空
浮かび 舞い 土に還った
かつての存在の記憶と
死体と成り横たわる身体
生きたこと と 死んだこと
二つの 過去の記憶を遺して

女の住む町
何処も変わらぬ建築物
町もまた 線を好むのだ
町もまた 人間の物だから
それもまた
形を無くしてしまうことを
とても こわいと おもうのだ

形 象 像 かたち カタチ …


草原に横たわる
誰もいない公園の
大きな楕円形の競技場
楕円形の真ん中に敷き詰められた
草 草 草
どんな草が其処に生きているのか
僕には わからない
そっと みつめてみる
色々な草が
色々な仕方で
小さな 色々な 緑色を
目一杯に背伸びして
空に向けて 立っている

草が 立っているなあ
不思議だなあ
踏んづけても
蹴り飛ばしても
草は 立っているんだなあ
草は 強いなあ
草は 頑固者だなあ
草は 負けず嫌いだなあ
でも 草は
どれも 似ていないなあ
草は 同じ名前の草でも
みいんな 違う形をしていて
みいんな 違う色をしていて
みいんな 空を 向いているのだ
不思議だなあ
不思議だなあ

僕の背中
紺色とベージュ色のセーター
草のみいんなの上に寝転がる
草のみいんなは ぺしゃんこだ
僕の背中や
僕の足や
僕のおしりや
僕の肩や
僕の頭に 踏みつけられて
でも なんだか 気持ちがいい
草のみいんなは どうだろう
そちらは どうですか
僕の目には
この 二つの眼球とやらには
大きな 大きな
それはもう 計り知れないほど 大きな
漆黒の 空 が 見えます。
漆黒の 空 は
いつも 僕の 遥か 遠くに
そう こんな ちっぽけな からだでは
けっして 届かないところにある
そう 思っていました。
けれど どうでしょう。

漆黒 の 空
すぐ
其処に
あるのです。

ほんの
すぐ
其処に
あるのです。

空は
遠くになんかありませんでした。
空は
草のみいんなの上に
紺色とベージュの背中を押し付けた
僕の身体の前面に 全面に
隈なく ぴっちりと
はりついていたのです。
僕の身体の 輪郭線
僕の身体の 輪郭線に沿う 漆黒の空
ぴっちりと タイツのように
はりついていたのです。
そして、僕は、目をつむります。
草のみいんなの中に
生きている
虫たちの声を聴くのです。
虫たちは鳴いています。
虫たちは鳴いています。
静かな大合唱です。
夜の草原のオーケストラです。
僕も合わせて 歌います。
リーン リーン リーン
ラーン ラーン ラーン
ルーン ルーン ルーン
ラリラ リリララ ラリラリルルル





空は次第に僕と同じものになりました。空は次第に僕の身体と同じものになりました。空は次第に僕の心と同じものになりました。空は次第に僕の魂のすぐそばまでやってきて、そっと、ぴったりと、足りない形を補うように、横に座りました。僕と空は二人で一人でした。僕はさみしくありませんでした。僕は独りでした。けれど、もう、独りではありませんでした。漆黒の空は次第に僕になりました。漆黒の空は漆黒である事さえも忘れてしまいました。漆黒である事さえも忘れてしまった空は次第に空である事さえも忘れてしまいました。空は空であることを忘れて、僕は僕であることを忘れて、草原も草原であることを忘れて、みいんな、みいんなのことを忘れて、ねむりにつくのです。

形のあることは
とても 疲れることだなあ
線を引くことは
とても 疲れることだなあ
くたびれちまったな
そうだよなあ
なんでこんなにくたびれること
続けなきゃいかんのやろなあ
さあなあ
そういうもんだから そうなんやろ
そういうもんかあ
そら そうだわなあ
仕方ないねえ
仕方ない
仕方ないなあ
仕方ないねえ

仕方ないから
時々
帰ってこようね

うん

時々でいいから
帰ってきてね

うん

みいんな 待ってるよ

うん

僕も 待ってるよ

うん

うん

うん



人は 線を引く
人は 線を引く

生を
そして
死を
生み出すために


今日も 僕らの街は
直線だけで 出来ている



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