2015年7月11日土曜日

永続する無数の「うた」を愛して 「Voices Ge Wald」の思想の一端

自然界には無数の音が常に生成と消滅を繰り返している。ひとたび森のなかに分入れば鳥や虫や獣の声が聴こえてくる。沈黙はどこにも存在しない。声は世界を満たし、ひとつの音楽を形成している。その音楽は、始まりも終わりもない永遠に持続する音楽であり歌である。かつてブライアン・イーノが提唱した概念であるアンビエントは、音楽というものの担い手を自然界の音響に接近させていく思想であったと私は考えている。聞かれることのない音楽はこの世界に溢れている。人間の歌もまた、自然界の音響と同様にかつては、ただ、歌われるものであり、それは数多の声たちと同じ価値を有するものであった。昨今の歌は、聴くことを前提に据え、ドラマを描き、何かを表現するという目的のために従属する声というものだけを歌として認識している。歌の原始を取り戻すために僕は、再び、歌を、無数の声の蠢きとして響かせることにした。非人称的な声たちは、しかし、それぞれの存在・身体から切り離すことのできない個を有しながら、全体として、あるひとつの目的に向けられたものではないカオティックな音響を構成し、アンビエントとしての歌が立ち上がる。脱目的性。歌の根源をここに取り戻すための、常に生成される音楽としてのインスタレーション作品である。

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