2014年8月4日月曜日

第6章 渦巻き 大腸のトンネル シルクハットの男

白い扉の中には、奇妙な通路があった。壁面には無数の曲線が螺旋状に彫り込まれ、その曲線は通路の奥へと続いていた。壁の質感は、脆い紙粘土のようで、手でふれるとボロボロと零れ落ちてしまう。通路の形は、四角ではなく円形であり、平らな面が一つもないため歩くのに苦労した。僕は、壁面の曲線につまづきながらよろよろと一歩、また一歩と歩を進めた。

小一時間程歩いたところで、開けた空間に辿り着いた。高さはおよそ10m程。空間の端から端までの長さは15m程だろうか。中心に六本の柱が立っている。その柱は、まるで太古の昔から其処に根を張り、悠久の時を超えて成長を続けている巨大樹のように見えた。巨大樹のような柱は、赤、青、黄、緑、オレンジ、紫の配色がそれぞれに施されており、渦巻き状の紋様が無数に彫り込まれていた。それぞれの渦巻きは、大きさを違えながらもそれぞれの終点で繋がりあい、全体として巨大な迷路のような模様を柱に描き出していた。

僕は六本の柱を眺めながら少しばかり歩いていた。柱は空間の天井に突き刺さり、何処まで続いているのかを知ることは叶わなかった。特に理由はなかったが、この六本の柱は、おそらく、何処までも続いているのではないかと僕は思った。「何処までも続く六本の柱」僕は声に出してそう呟いた。いつの間にか、僕の口には、声が帰ってきていた。失われた声は何処かを彷徨い歩き、再び主人の元へと帰ってきたのだった。








僕は自分の口に帰ってきた声を確かめるようにして、ゆっくりとそう呟いた。

「お待ちしておりましたよ」

突然、その言葉が僕の耳に届いた。僕は驚いて、よろめきながら声のした方を向いた。そこには1人の男らしきものが立っていた。

身の丈190cm程の長身に、黒色のシックなシルクハットとスーツ、左胸ポケットには鮮やかなショッキングピンク色のハンカチーフが差し込まれていた。大きなシルクハットに顔が隠れていて、男がどのような顔をしているのかを知ることは叶わなかった。(男のような低い声色であったので男と判断したが、正確に判断する基準は他にはなかった)

男らしきそいつは、僕に向かって今度はこう言った。

「いやはや、ご機嫌いかがでしょうか。「大腸のトンネル」は些か歩きづらい処でありましたから、お疲れかと思います。ささ、此方へどうぞ。貴女様の席はご用意して有りますので。ええ、それはもうとびっきりゴージャスで、エレガントで、ナイーヴで、怖いもの知らずな、スペーシャルなお席で御座いますよ。私、貴女様の為に、特別なお席をご用意させて頂きましたから。3光年程前から列に並んで席を確保させて頂きましたのですよ。まあ、たかだか3光年と仰る方もおいでですが、私こう見えて、中々に忙しいものでして。今日も豚のフンを金塊に変換するためにせっせとケサランパサランを集めておりました処です。100匹ほど集めませんと、純度の高い金塊には成りませんからね。白粉も高級な物を使っていますのよ。あゝ、そうそう、貴女様もよくケサランパサランをお見かけするでしょう。彼らは気まぐれですから、私たちの処を好みそうな人間の元へふらりと遊びに行くのです。それで時々捕まってしまうのですがね。まあ、ドジっ子パサラン、パサパサラン!といったところでしょうか。おほほほほほ。」

男は次から次へと言葉を発していたため、僕は次第に疲れてしまい、その先の言葉には耳を伏せていた。男に導かれるままに、僕は空間の奥へと続く道を再び歩いていた。こちらの通路はさっきの通路とは違い、真四角で、壁面は黒色、ピカピカに磨き上げられた大理石のような質感の壁が真っ直ぐと続いていた。黒一色の通路に、男と僕が歩き、地面を靴が叩く音が不揃いに響いていた。

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