男の子はブロック遊びがとても好きだった。色とりどりのブロックたち。大きさの異なるブロックを一つ、また一つと重ね合わせていく。何を作るのかなんて事は少しも考えてはいなかった。ただ、ひたすらにブロックを組み合わせて行く。
次第に、ブロックが大きな物体となる。何かの形に見えてくる。ここまで来たらしめたものだ。男の子は、全身全霊、微笑みを浮かべ、まあるいをさらに大きくまあるく見開いて、形の完成を目指して行く。彼の視界には、いまやブロックの集合体が織りなすまだ見ぬ完成した形だけが映っている。どんなものも、彼の世界に入ることはできない。それは、男の子とブロックの間だけに存在する、違う世界であるから。
瞬く間に男の子は、ブロックを積み上げ、ついにその色とりどりのブロックの集合体は男の子にとっての完全な完成をみた。男の子は歓喜し、その完成品をまじまじと、何度も何度も眺める。上からも、下からも。横からも、斜めからも。あらゆる角度から点検する。不備はないか。うん、大丈夫。問題は一つも見つからない。男の子は満足とともに安堵し、完成したその物体を床の上に置いた。世界に、新しい住人が加わった事を、男の子は誇りに思っていた。
そろそろ、晩御飯の時間だ。男の子の母親は、彼に片付けを指示する。床に散らかったままのオモチャたち。男の子は、母親の言葉に従い、片付けを始めた。
ブロックで作られた新たな住人を見つめる。彼も、片付けなくてね。男の子は、少しだけ躊躇いながら、住人に手を伸ばす。そして、もう一度彼をあらゆる角度から眺めて見た。
うん。君は、完璧だ。
もう、僕の手を離れても大丈夫。
君なら、大丈夫。
だって、こんなに立派じゃないか。
僕はね、片付けなくちゃいけないんだ。
お母さんに言われたからね。
じゃないと今夜の晩御飯のカレーライスが食べられないんだよ。
わかってくれるよね。
うん。大丈夫。
うん。それでいいよ。
怖くもないし、痛くもかゆくもない。
へっちゃらさ。
誰にも見えない僕のこと、作ってくれてありがとう。
どういたしまして。
それじゃあ僕は出て行くね。元気でね、ゆうた。
うん。ばいばい。
男の子は、ブロックを解体していく。一つ、また一つと、箱の中へしまってゆく。形は次第に消え失せ、元のブロックの塊と化していく。これでいいんだ。うん。いいんだ。
男の子は片付けを終えて食卓へと足を運ぶ。食卓には、大好きなカレーライスが湯気をたてて待っていた。スプーンに手を伸ばす。いただきます。召し上がれ。
カレーライスを一口ほおばって、男の子は泣き出した。
大粒の涙が、目から溢れ出して、ボタボタと机を叩く。
男の子は、走る。
ブロックの元へと駆け寄り、もう姿が見えなくなってしまった彼の事を想い、大声で、泣いた。
やっぱり、壊しちゃうんじゃなかった!
もう会えないんだもん
やっぱり、間違ってたのかな
でもね、でも、そうするしかなかったんだもん
片付けなくちゃ、ダメなんだもん
だから
でも
ね
うん
もう会えないんだね
うん
さみしいよ
うん
さようなら
ばいばい
ばいばい
ばいばい。
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