2014年1月22日。東京。
今日も断絶はやって来ない。
断絶は旅人だ。それは何も語らない。
断絶は身体を持たない。それは何処にでもいる。
断絶は物語らない。それはあくまで空間に浮遊する。
断絶は、時に男であり、時に女であり、不特定多数の存在と瞬間的であまりに官能的な性交を交わす。僕たちはそれを知っている。知らぬまま、知っている。
街を緩やかに取り込む夕闇。
太陽は何処に消えてゆく。
僕は断絶を愛している。
断絶はどうだろう。
彼(彼女)はワイングラスを片手にこう言うかもしれない。
「私は、誰の事も愛しはしない。私は、愛そのものの裏側にいるのだから。愛と私は陰陽のように絡み合い、雪の結晶のように綺麗に、時にあたたかく、時につめたく、あなたのそばへやってくる。私は、いる、のではなく、ある、ものなの。遠い過去の記憶と遠い未来の憧憬がとてもよく似た双子の兄弟であるように、私は何処にでも、ある。あなたが、私を求めさえすれば。」
間接照明に照らし出された断絶の身体。
床に彼(彼女)の影は映らない。
彼(彼女)は、闇そのものだから。
官能という言葉を一口頬張る断絶は、赤いシルクに身を包み、バーカウンターの一枚板にリズムを刻む。
孤高のマイルス•デイヴィスよ。
あなたの叫びを聴かせておくれ。
妖艶な女の裸の吐息と、錯乱するヒステリックな女の叫び。
マイルス。あなたはいま何処でなにをしている。
怪しげな紫色のライトに照らされた、芳醇な赤。
ワイングラスは語る。
「血で描くのさ。抑圧された身体を破壊しながら。」
ああ、まるで夢のような世界。
ああ、生まれてきた世界をこんなにも不確かに感じる。
ああ。ああ。ああ。
今宵も、断絶は、静かに微笑む。
「あなたがあなたである限り、私はあなたの側にある。あなたがあなたをやめるとき、私はあなたを抱きしめる。強く。息の止まりそうなほど強く。そう。それは、何よりも官能的で、何よりもロマンティックで、そして、なによりもエロティックな、永遠の瞬間をあなたが手に入れるということ。私は、ある。其処に。此処に。」
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