2014年7月18日金曜日

第二章 My Blue Wave 白い少女は笑っている


蒸し暑い夏のある日の夜のこと。僕は、JR中央線の中、オルタナティブ•カントリーバンド Lambchop『Is A Woman』の「My Blue Wave」をiPodで聴いていた。

少ししわがれたvo.の歌声を、大らかで深みのあるグランド•ピアノ、アコースティック•ギターの音色が包み込む。僕は目をつむる。そして、イメージする。「My Blue Wave」。私の青い波のことを-



ひとりの少女が笑っている。
白い砂浜。流れ着いた木々。ガラスの瓶。片方だけ取り残された靴。

少女の肌は、閃光のごとき太陽の光に照らされて、シルクのように白く輝いている。

彼女は、誰だろう。
僕は、彼女の名前を知らない。
けれど、彼女は僕を呼ぶ。

「おーい、はやくはやくー。」

彼女の声に導かれて、僕は、歩きだす。サラサラとくずれる砂浜を足の裏に感じる。小さな小さな砂粒の集合体。白や黄色や茶やピンクのミクロな残骸。様々な過去の命の抜け殻が砕け散り、今、こうして僕の足の裏が踏みつける白い砂浜が生まれてきたのだろう。

細やかな生命の断片。
喪われた記憶は、海へと還っていったのだろうか。

彼女は、笑っている。
なぜ、だろう。
彼女は、笑っている。
なぜ、だろう。

僕は彼女の隣に立ち、海を眺めた。青い波の群れが、ゆらゆらと漂いながら、白い砂浜へ辿り着く。次から次へと。青い波たちは、永遠に砂浜に辿り着きつづけてゆく。これまでも。これからも。永遠。

遠く、海の表面は、太陽の光をはじき、ギラギラと、生き物のように蠢き出す。僕の目は、それを見ている。無数の、形のない、生き物の群れ、海、表面、乱反射する、光、の、群れ。

彼女は、笑っている。
白い歯を光らせて。
彼女は、笑っている。
なぜ、だろう。

なぜ、だろう。
なぜ、だろう。
なぜ、だろう。

僕は、彼女を、殺してしまいたい。
できるだけ、すみやかに。
できるだけ、愛をこめて。
できるだけ。できるだけ。

波の音が聴こえる。
波は、歌を、歌うだろうか。

僕には、海が、見えない。
東京の街には、今宵も雨が降る。

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